「外注費がもったいない」という理由で、多くの業務を内製化しようとする工務店は少なくありません。多いのは事務スタッフがチラシを作ったり、現場監督が撮影した動画や写真を使用して内勤スタッフがSNSを更新する。一見、堅実な経営判断に見えます。
しかし、その判断がコスト削減どころか、気づかないうちに大きな損失を生んでいるケースがあるのです。
結論を述べると、工務店の「武器」となる設計や施工は自社で磨き、専門知識が必要なマーケティングは外部のプロと組むべきです。その明確な理由を、ここから解説していきます。
自社でやるものとプロへ任すものを区別する
マーケティングにおいて顧客とのあらゆる接点(タッチポイント)で、いかに自社の価値を正しく、魅力的に伝えるかは最も重要です。とくに住宅は「デザイン」という面において工務店選びの大きな判断材料となります。なので、その商品を伝える各媒体においてもデザインは自然と求められます。
先に一つお伝えしておきますが、「すべてをプロに頼むべき」という話をしたいのではありません。例えば Canvaというツールはデザインを民主化したと言われており、デザインに知見のない人でもテンプレートを使えばプロとそこまで大差のないデザインを作れます。
数日間だけ告知するような短期イベントの案内チラシなら、テンプレートなどを活用してスピーディーに、低コストで作成するという判断は合理的です。このようなケースは率先してCanvaを使い、自社で完結することをお勧めします。
しかし、会社の信頼性や技術力が問われ、競合他社と比較される場面では話が全く違います。
特に、お客様が3~5社を同時に比較検討する「資料請求」の場面を想像してみてください。他社から美しいデザインで製本された資料が届く中、自社だけが普通紙に印刷してホッチキスで留めた資料を送っていたら、お客様はどう感じるでしょうか。 おそらく、「この会社は、建物のクオリティもこの程度なのかもしれない」と、その資料の質と建物の質を無意識に結びつけてしまうはずです。
10年以上も前ですが、私が営業マンの時代はよく「ハウスメーカーのような豪華なパンフレットや素敵な展示場はありませんが、その分お客様の建物にコストを掛けています」という謳い文句が流行りました。
当時はそれで良かったかもしれませんが、今はある程度売れている工務店はどこもハウスメーカーと大差ないツールやモデルハウスを持っています。
それに、本当に建物に還元しているのかと言うとエビデンスがないので不透明さは拭えません。実際にその工務店よりも性能もデザインも高くて価格の安い会社はいくらでもあるので、単なる言い訳と捉えられても仕方ありません。
資料請求を送っても反響がないという工務店は非常に多く、どれだけ良い家づくりをしていたとしても、資料のクオリティで選択肢から外されている可能性もあると思います。
他の例を挙げるとYouTubeでも同様です。 素人が頑張って編集したテロップや効果音の単調な動画を、お客様は15分も20分も集中して見てはくれません。プロの編集者は視聴者を飽させないために、適切なタイミングでフォントを使い分け、効果的なインサート映像やBGM、効果音を駆使する技術を持っています。
InstagramやTikTokの様なショート動画であっても視聴者が見やすい撮影・編集技術が必要となります。
厳しい言い方になりますが、こうした分野での内製化で高いクオリティを担保できない場合、「スタッフが頑張っている」という社内評価だけに過ぎません。お客様の貴重な時間を使わせているという視点に立てば、それが本当に「お客様のため」を考えた仕事とは言えないのです。
なぜか育ったら辞めていく建築業界
もちろん外注が儲けるだけ、いつまで経っても外注費削減ができないのは経営において健全ではないという意見もあるでしょう。そして「自社で専門家を育てれば解決する」という結論に辿り着くかもしれません。しかし、無視できない現実的な問題も存在します。
それは、担当者の退職です。
私自身もYouTubeに出演してくれていたクライアントの若手スタッフ2名が立て続けに退職された経験があります。
出演していた動画はすべて非公開となり、数十万の制作費が無駄になりました。またYouTube動画は公開後、おすすめに乗ると何年にも渡って再生されます。その動画がきっかけで契約になる可能性だってあるわけです。
今後売り上げを生み出す可能性があったと考えると数千万円の損失と言っても過言ではないです。
厚生労働省の調査によると、建設業全体の離職率は全産業の平均値を下回っており、一見すると人材は定着しているように見えます。しかし、問題は若年層にあります。
令和2年3月に高校を卒業して建設業に就職した若者のうち、3年以内に離職した割合は42.4%にものぼります。これは全産業の平均(37.0%)を5ポイント以上も上回る厳しい数字です。大学卒でも約3割が3年以内に辞めていくのが現実です。

つまり、業界全体として、若い人材がなかなか定着しないという構造的な課題を抱えているのです。
SNSを筆頭に集客に関する役割は若年層が担うことが多いです。多大なコストと時間をかけて育てた若手が、数年で半分近くも辞めてしまう。さらにスキルを身につけたが、その結果、そのスキルを持ってより良い条件を求めて転職したり、独立したりするのはこの業界でよくある光景です。
そのたびに採用と育成をゼロから繰り返すのは非効率であり、その期間外部への発信は停滞してしまいます。そういったことから専門家である外部パートナーと連携する方が、リスクは少なく効果も安定します。
外注するものを間違ってはいないですか?
一方で、不思議なことにマーケティング業務の内製化にこだわる工務店が、自社の根幹であるはずの設計を外部に丸投げしているケースがあります。
お客様が最終的に心惹かれるのは、会社の「カラー」であったり「らしさ」、つまり自社のこだわりが反映された部分です。デザインの方向性、プランニングの思想、安全を追求した構造計画。これらこそ、その工務店のアイデンティティそのものです。
この最も重要な部分を自社で突き詰め、ノウハウを蓄積することで、他社には真似できない独自の価値が生まれます。自社の「武器」を磨かず、畑違いの分野にリソースを割くのは、本末転倒と言えるでしょう。
「下請け」ではなく「チーム」へ。ただしパートナー選びが鍵
工務店の仕事は、もともと多くの専門家とのチームプレーで成り立っています。基礎工事、大工、電気、設備など、各分野のプロと「パートナー」として連携し、一棟の家をつくり上げます。
集客やマーケティングも、これと全く同じように捉えるべきです。外注先を単なる「業者」ではなく、「会社の目標を共有し、共に走るチームの一員」と位置づけるのです。
この考え方は、新建新聞社の三浦社長が提唱する「スモールエクセレント工
務店」の経営スタイルにも通じます。
「小さいからこそ魅力的で強い」を貫く「スモールエクセレント」は、工務店が生き残りに向けてまず検討すべきビジネスモデルだ。「スモール=小さいからこそ」「エクセレント=魅力的で強い」を表現しており、小規模で損益分岐点が低いゆえに旗印を明確にして建築と経営を尖らせることができる。その旗印に共感しあえる顧客とだけ仕事をする。そんなモデルだ。
新建ハウジング https://www.s-housing.jp/archives/337315
工務店らしさを追求するには少数精鋭で自社の「尖った強み」を磨き上げる。決して会社を必要以上に大きくする必要はなく、最小限の人員で生産性向上を図り、自社が得意なことにリソースを集中させる。それ以外の業務に関しては外部のプロフェッショナルとパートナー連携することで高い付加価値を生み出す、非常に合理的な手法ということです。
ただし、ここで絶対に間違えてはいけないのが、その「パートナー選び」と「付き合い方」です。
最もやってはいけないのは、会社の根幹である「戦略」部分を丸投げしてしまうことです。コンサルタントの言うことを鵜呑みにし、言われるがままに施策を実行するのは、思考停止に他なりません。
まず、「自社がどうありたいのか」というゴールを明確に描くのは、経営者自身の仕事です。その上で、「そのゴールへ最短で到達するための専門知識や方法論を、外部パートナーから借りる」というのが、最も健全で効果的な関係性と言えるでしょう。
良いパートナーとは、こちらの戦略を深く理解し、同じ目標に向かって専門的な力を貸してくれる存在です。
具体的に外注を検討すべき6つの施策
では、具体的にどのような業務が外注に適しているのでしょうか。ここでは代表的な6つの施策を挙げます。
竣工写真の撮影
完成した住宅の写真は、お客様にとって最も訴求力のあるコンテンツの一つです。プロのカメラマンは、物件の魅力を最大限に引き出す構図、光の捉え方、そして細部の表現を知っています。素人が撮影した写真では、その価値を十分に伝えきれない可能性があります。
Instagram・TikTok
単に綺麗な写真を投稿すれば良いというわけではありません。どの投稿が効果的で、どの投稿が響かなかったか、データを細かく見ながら仮説と検証を繰り返す専門的な視点が必要です。片手間で成果を出すのは非常に難しい領域です。
YouTube
視聴者は「企業の自慢話」ではなく「自分にとって役立つ情報」を求めています。自社で企画すると、どうしても作り手目線の内容になりがちです。また、視聴者を長時間飽きさせないプロの編集技術も不可欠で、多くの企業が自社運用を始めても、結局は更新が止まってしまうのが現実です。
Web広告運用
これは専門知識の塊とも言える分野です。日々のデータ分析と細かな調整が欠かせません。成果の出ない広告を配信し続けることは、貴重な広告費をただ垂れ流しているのと同じことになってしまいます。
比較検討される資料のデザイン
お客様が他社と比較検討するために手元に取り寄せる資料(パンフレットなど)は、会社の「顔」です。ここでクオリティが低いと、前述の通り、建物自体の品質にも疑問を持たれかねません。
SEO(検索エンジン最適化)
Googleのアルゴリズムは常に変化しており、プロの知見なしに対応した記事を作成するのは難易度が高いです。また、検索上位を狙うだけでなく、読者がストレスなく読める文章構成力は、プロのライターに一日の長があります。
まとめ
結局のところ、最も重要なのは「自社のリソース(人・時間・お金)を、どこに集中させれば最も効果的なのか?」という経営判断です。
自分たちは自分たちにしかできない「武器」を磨き続ける。 ポジショントークに聞こえるかもしれませんが、この「本業に集中し、専門分野は信頼できるプロと組む」という考え方は、工務店業界に限らず、あらゆるビジネスに共通する成功原則と言えるでしょう。

